「いいゆめ・ゆし・きぶん。」

イラストレーター佐藤右志の脳内備忘録ブログ

『邪魔になったサンタクロース』

 

*2015年12月 第四回目の「超ショートショート講座」で作った自作ショートショートです。


『邪魔になったサンタクロース』


作・わたし

 


時は2015年、師走。

年の瀬がせまる夜の街。

街路樹は煌びやかなイルミネーションに彩られ、街ゆく人々はあと数日にせまったクリスマスのプレゼントを探し求め、街中が賑わい華やいでいた。

そんな中、街の賑わいから少し離れた場所にある、人気のない小さな公園のベンチに、「ハァー」と大きなため息をつきながら1人うなだれる大男がいた。

その大男の名は「サンタクロース」。

そう、かの有名な「サンタクロース」である。

あと数日もすれば時の主人公、子ども達のヒーローになる、あの「サンタクロース」がナゼこんなところでため息などついているのだろうか?

そもそも、クロネコヤマト並みに繁忙期の最中であろうはずの彼に、そんな暇などないはずである。

ではナゼ?

答えは簡単だ。ため息をつけるほど彼は暇だったからであった。

 


「本当はサンタなどいやしない」
「サンタなんて、どうせ親でしょ?」


”サンタいない説”をカミングアウトする大人と、サンタの正体を知ってガッカリしてしまった子どもの間に、いつしかクリスマスは「おねだり」と「ご褒美」のギブアンドテイクの日になりかわってしまって以来、本家本元のサンタクロース達の仕事も年々激減していたのだった。。

世の風潮とは慎に怖ろしいものだ…

「このままではサンタJrも養えん…」

と、仲間達は次々と赤いスーツを脱ぎ捨て、白ひげを剃り落し、サンタ業を廃業し転職していった。

生活に困窮した仲間の中には、先祖代々受け継がれた大事なソリをオークションに出品し売ってしまうものもいた。
(ちなみに高値で競り落とされたようだ…)

長年連れ添った大切な相棒のトナカイさえも養えず、泣く泣く動物園に手放すものもいた。

それどころか、中には仲間に無断で”サンタマーク”や”サンタロゴデザイン”などを勝手に商標登録し、サンタグッズを販売したり、トナカイやソリのレンタル業を始めたり、金に目が眩んだ仲間達は次々とサンタを辞めてサンタビジネスに流れていったのだった。

「あいつも…そして、あいつも…
みんな変わってしまった…
きっとこのままじゃ、いつかワシも…
この自慢の白ひげを剃り落とすことになるかもしれん…」

サンタはそう、やるせなくポツリ呟くと、再び「ハァー」と大きなため息をついて、ただただうなだれるばかりであった。

 

「…あのー、おとなり空いてますか?」

サンタが慌てて顔を上げると、目の前に1人の女が立っていた。

見るからに仕事帰りであろう仏頂面したその女は、ひどくくたびれている様子だった。

「え、ええ!ど、どうぞどうぞ…」

慌ててサンタが返事をすると、仏頂面の女はぶっきら棒に会釈をし、サンタの真横にドスンッと腰を下ろしたかと思うと、「ハァー」と、大きなため息をひとつつき、自分の肩をトントン叩いたり、首をぐるぐる回しはじめたのだった。

その様子を見かねたサンタは思わず女に話しかけた。


サ「…あのー、ずいぶんとお疲れのご様子ですね…」

女「…ん?あ?ひょっとしてあたしに話しかけてんの?」

サ「はい…ずいぶんお疲れだなぁと…」

女「…そうなのよ。あたし、もうグッタリなの。…ほら年末でしょ?年末進行ってやつで、サンタ並みに忙しいの」

サ「…サンタ並みにですか…はぁ…
年末進行、何ですかそれ?」

女「…あぁ、あたしね、本作ってんの、本。この仕事ってね、特に年末忙しくって。…全然っ、終わんないから、もう今晩はさっさと帰ることにしたの」

サ「…はぁ…本ですか…それは大変ですなぁ」

女「…まぁーねー」

サ「でも、仕事が忙しいのはなによりじゃないですか?……うらやましいかぎりですよ…」

女「…まぁーねー。でもね、今の時代、本が売れないからさぁー、結構大変なんだよー」

サ「…はぁ…そうですか…それはそれで大変ですなぁ…」

女「…まぁーねー。あ、ところでおじさんは?ここでなにしてんの?」

サ「……」

女「…あ、もしかして聞いちゃマズかった?」

サ「…いや、マズくはないが」

女「……」

サ「……」

女「…それにしてもさぁ、おじさん、すっごいヒゲだよね。実はねあたし、さっきからずーっと気になってたの。遠くから、なんかベンチに暖かそうなヒゲのおじさんがいる~って、そのヒゲ超ー目立ってたから。ほらあたし疲れてるせいかおじさんが段々お布団にみえちゃって!気づいたら吸い寄せられるようにここに来ちゃってて。
…あ、ごめんなさい!あたし超失礼なこと言っちゃったね!」

サ「…いや、かまわんよかまわんよ」

女「それにしてもおじさん、そのヒゲ。ここまで伸ばすの大変だったでしょ?なんでそんなに伸ばしてるの?えっと、ファッション?趣味?願掛け?」

サ「…いや」

女「え?じゃあ、仕事でとか?」

サ「…まぁ、そういうことじゃ」

女「こんなヒゲがゆるされる仕事って、、なんだろう?だってそのヒゲ、カーネルおじさんの比じゃないもん。ってか、サンタ並みじゃん。あっははは~!」

サ「…まぁ、そういうことじゃ」

女「え?」

サ「…そういうことなんじゃ」

女「…え?なに?そういうことってどういうこと?」

サ「…サンタクロースなんじゃ」

女「…誰が?」

サ「…ワシがじゃ」

女「…おじさんが?」

サ「そうじゃ」

女「…本当に?」

サ「本当じゃ」

女「……えーーー!!うっそ~?!信じらんないーー!!ってか、サンタがこんなとこで油売ってて大丈夫なの?今超ー忙しい時じゃん!なに?もしかして仕事の合間の一服中に私サンタに遭遇しちゃった?え、私もしかして超ラッキー?」

サ「……」

女「あ、ごめん!大っきい声で!みんなにバレちゃうね!折角の一服中、ゆっくり休んでられないでしょ。ごめんごめん!…えっと、、、あ、私そろそろ行くね!おじさんゆっくり休んで!お互い年末進行で忙しいけど、頑張って山場のりこえて良い年迎えましょうね!」

サ「あ、い、いやっ!待ってくれ!大丈夫なんじゃっ!だから行かんでくれっ!」

女「…はい?」

サ「ぜ、全然、忙しくないんじゃっ!」

女「…え?」

サ「暇なんじゃっ!」

女「…サンタが?」

サ「…そうじゃ、サンタがじゃ。…暇すぎて困ってるんじゃ…
だから、まだ居てくれてもかまわないんじゃ…」

 

キツネにつままれたようにキョトンとする女に、サンタは自分の境遇について懇々と話して聞かせたのだった。

 

女「…そっかぁ~。今どきはサンタさんも大変なんだねー。」

サ「…そうなんじゃ…」

女「それじゃあ、お子さんや奥さん養うのも大変でしょ~?ソリとかトナカイの維持費なんかもかかるんじゃないの?」

サ「…そうじゃのぉ…」

女「そーだよねぇ…」


そう言うと、おもむろに女は立ち上がり、近くの自販機へ行き、缶コーヒーを両手に持って再びベンチに戻ってきて、サンタに一本缶コーヒーを手渡した。


女「飲まない?ずっと座りっぱなしで冷えちゃったでしょ?缶コーヒーだけどよかったら」

サ「ワシにか?…あぁ、すまない。ありがとう、いただくよ」

 

サンタは缶コーヒーを女から受け取ると、
しばらく両手で缶を大切に包み込むように握りしめ、手に伝わる温もりに安堵したのだった。サンタの横で女は、缶コーヒーをカシュッと音を立てて開けると、コクコクと飲みながら「あったまるね」と呟いた。

 


サ「…いつから、みんなは信じなくなったんじゃろぉ…」

女「え?サンタのこと?」

サ「…そうじゃ」

女「う~ん。そぉねぇ…サンタって姿形が見えないからかなぁ?」

サ「…見えないから?」

女「うん。あ、でも、見えないから逆に、”いて欲しい”って想像を膨らませて、信じようとするのかもしれないけど」

サ「……信じようとするか、、、
そりゃそうと、お前さんは想像じゃなく、ワシが本当にサンタだと信じてくれるかね?」

女「え?あたし?まーねー。そりゃ最初はね、おじさんがサンタだなんて、ウソじゃない?って一瞬、思ったけど。だって、サンタさんってプレゼントだけ届けて絶対姿は見せない存在で、絵の中の人だってずっと思ってたから。でも、そんな見事なヒゲみたことないし、話聞いてるとホントにサンタみたいだし。」

サ「…そうかい」

女「うん」

サ「…ところでよかったら、お前さんの小さい頃のサンタの思い出を聞かせてはくれまいか?」

女「え?あたしの?……うちはさ、クリスマスとかって初めから一切やらない家庭だったからなぁ。だからクリスマスにプレゼントなんて一度も貰ったことがなくって。お友達がサンタさんにプレゼント貰ったって嬉しそうに話すのを聞いて、子どもの頃はずっとみんなが羨ましかった。どうしてうちだけサンタさんは来ないんだろうって。」

サ「ふむ」

女「それでね、訳を親に聞いてみたら、サンタなんて知らん!って」

サ「うむ!」

女「だからかな、私ね、もしかしたら子どもの時よりも、大人になった今の方が、サンタはいないってわかってるのに、未だに心の何処かで、いて欲しいってずっと信じ続けてるの。信じてるっていうか、信じたいんだと思うんだけど。」

サ「…信じたい?」

女「うん。だって、信じなきゃ何も始まらないでしょ?なんでもそうだけど。…ホント、馬鹿みたいだけどね!いい大人が。今どき子どもだって、サンタを信じなくなってるのに。」

サ「いや、馬鹿じゃないさ。現に今、お前さんの目の前にワシがおるわけだし。」

女「あ!そーだね!まさかプレゼント届けてもらう前に本人に直接会っちゃうなんてね!すっごいよね!あははは!」

サ「ふぉふぉふぉ!」


女「…ふふふ、サンタさんやっと笑ったね」

サ「…お前さんもな」


2人は穏やかに微笑みながら缶コーヒーを飲んで、夜空を見上げた。星が煌めいていた。


女「…実はね、私、さっきまですっごく落ち込んでたの。仕事で大きなミスしちゃって。ホント自分はなにをやってんだろ?サイテーだって、自分を責めて、自分のことさえも信じられなくなるくらい落ち込んでたんだけど、サンタさんと話してたらね、なんか元気でてきた。ありがとね」

サ「いやぁ、お礼をいうのはワシの方じゃ。美味しいコーヒーまでご馳走になってしまって…」

女「ふふふ、サンタさんにプレゼントしちゃった。逆プレゼント。ふふふ」

サ「ふぉふぉふぉ!」

女「さぁてと!私、そろそろ行くね。やっぱりもう一回会社に戻ってもうひと頑張りしてくるわ!」

サ「ほう。そうかい」

女「うん」


そういうと、女はスックと立ち上がり両手を挙げて気持ち良さそうに空に向かってひと伸びした。


女「じゃあね、サンタさん!お互い大変だけど頑張ろうね!良いお年を!」

サ「あ、お前さん、ちょ、ちょっと待ってくれ!」


歩き出した女をサンタは慌てて立ち上がり引き止めた。


女「ん?どうしたの?」

サ「ワシとしたことが、すっかりお前さんの欲しいものを聞くのを忘れておった!お前さんは何か欲しいものはないかい?」

女「欲しいもの?」

サ「そうじゃよ、クリスマスプレゼントじゃよ」

女「あー!そっか、すっかりお願いするの忘れちゃってたわね!サンタさんに会って満足しちゃって!」

サ「まだ間に合う、ぜひともお前さんの欲しいものを教えてくれないか?」

女「…うーん、そうだなぁ。クリスマスは仕事で忙しいし、ぶっちゃけ来られても困るんだよねー。そーだなぁ、、、あ!それじゃあ、お手紙ちょうだい!」

サ「…手紙?」

女「そ、お手紙」

サ「…手紙、で、本当にいいのか?」

女「うん。いつでもいいから。できれば、サンタさんが元気かわかるような直筆のお手紙がいいな」

サ「…ほう」

女「ほらあたし、昔からクリスマス関係ないしでしょ?だから毎日クリスマスってことで。だからね、サンタさんが出せる時にお手紙書いて送って。そしたら私もお手紙送るから」

サ「なるほど。ではそうしよう!」

女「うん。じゃあ楽しみに待ってるね!」

 

こうして、女はサンタに別れを告げ会社に戻って行ったのだった。

サンタもベンチから立ち上がり、気持ち良さそうに空に向かって大きくひと伸びした。


「よし、ワシももうひと頑張りじゃな」

そう呟いて空を見上げると、星々が煌めいていた。

 


時は2016年、師走。

年の瀬が迫る夜の街。街路樹は煌びやかなイルミネーションに彩られ、街ゆく人々は
クリスマスのプレゼントを探し求め、街中が賑わい華やいでいた。


「今年のクリスマスプレゼントどうしようかなぁ~?」

「あらあなた、まだ考えてなかったの?」

「うん。困っててね。子ども達が喜ぶようないいアイデアない?」

「それなら、この本読んでみたら?今すっごく話題になってるんだよ」

「え?なんて本?」

「『現役サンタ直伝!みんなが喜ぶサプライズアイデア』って本。」

 

 


おしまい

 

 

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長い話になってしまいましたが、読んでいただきありがとうございました。


サンタクロースがいるか、いないかって、この時期お決まりで話題に上がる話ですが。

子どもを持つ姉は、サンタさんがいないことをいつまで子どもに黙っていようか伝えるタイミングを考えながらも、ずっと”いるで通したいんだよね”とも言ってます。(笑)でも、そういいつつも「黙ってても子どももホントはわかってるんだけどね」とも言ってました(笑)


それでもあえて、大人も子どももサンタはいるんだと、互いにステキな嘘を”信じる”。私はそれってステキでいいんじゃないかなぁ~なんて思ったりします。


サンタはある種のメタファーみたいなもので、信じてみた時に、はじめて実在し、具現化するものなんだと思う。

だから先ずは「信じること」ありき。
信じなければ、そこにはなにもないのかなとも思います。

と、理想論かもしれませんが、そんなことを思いながら書いてみました。

最期は超現実的なラストになりましたが(笑)

 

それでは!みなさん。どうぞステキなクリスマスをお過ごしください!( ´ ▽ ` )ノ